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このように、この場合には負債の発行は節税効果分だけ企業価値を高め、同時に1株当たり株価の上昇をもたらした。
では、U杜がさらに200億円負債を発行して自社株を買い戻し、今度は財務的な破綻にともなうコストが発生すると想定すると、企業価値と株価はどのように変化するであろうか。
この場合、財務的な破綻にともなうコストの現在価値は200億円と資本提供者が予想したとすると、企業価値は節税効果の現在価値200億円X40%80億円がプラスされ、財務的破綻にともなうコストの現在価値200億円がマイナスされて、結局、120億円減少する。
ここで注意すべきなのは、この企業価値の減少は株主資本の価値の低下だけでなく、債権者がより高い利子率を要求するという形で負債の価値の低下につながる可能性があることである。
かりに負債の価値が20億円、株主資本の価値が100億円低下したとすると、株主資本は500億円となり、株価は667円に低下する。
このように過度の負債の利用によって、節税効果の現在価値を上回る規模で財務的な破綻にともなうコストが発生し、企業価値を低下させる場合には、負債がその低下分をすべてかぶらない限り、株主資本の価値は低下し、株価が下落する。
このように一般に、資本構成の変化によって企業価値と1株当たり株価とは同じ動きをする。
したがって、企業価値を最大化する最適資本構成は同時に株当たり株価の最大化をもたらすのである。
なお、以上の例では負債発行による自社株買い戻しが企業価値と1株当たり株価に与える影響を取り上げたが、増資による借入金返済はちょうどこれと裏返しの行動であるので、その場合も同様の議論が成り立つ。
回資本構成決定の現実的な考慮点以上述べたように、理論的には、負債利用による節税効果の現在価値の増分と倒産の可能性にともなうコストの増分が等しくなるところで、企業価値は最大化するので、これが最適資本構成ということになる。
しかし、財務的な破綻にともなうコストを客観的に数量化することは困難なので、実際に最適資本構成を求めることはまず不可能である。
また、これまで取り上げてきた最適資本構成の議論は時価ベースの負債と株主資本に関するものであり、簿価ベースの最適資本構成に関する理論的なフレームワークは存在しない。
したがって、実際には企業は以上のような理論的フレームワークを頭に入れながらも、その他の現実的な点も踏まえて資本構成を決める必要がある。
現実の世界では、以下のような諸点が総合的に考慮されて資本構成の選択がおこなわれていると考えられる。
(1)収益性収益性が高い企業は必要資金を内部留保でまかなうことができるため、負債比率が低くなる傾向がある。
これは、財務理論に反する現象である。
というのは、収益性が高い企業の場合には、赤字に陥る可能性が少ないので節税効果を利用でき、かっ低利で負債を調達できるので、利益のより多くを配当し、必要資金を負債で調達すれば企業価値をより高めることができるからである。
しかし、理論に従って、この財務政策をとる企業はまず存在しない。
逆に、収益性が低い企業は必要資金を内部留保で十分まかなえないため、負債で調達せざるをえず、負債比率が高くなる傾向がある。
これも理論の教えるところによれば、収益性が低い企業は財務的な破綻に陥る可能性が高いため、そのコストを低減するためには株主資本のウエートを高めるべきである。
しかし、収益性の低い企業が増資をおこなうことは困難なため、現実には負債に頼らざるをえないのである。
(2)事業リスクの水準事業リスクが大きく、営業利益の振れが大きい企業はそれだけ、財務的な破綻に陥る可能性が高くなる。
したがって、事業リスクの大きい業種(例えば医薬品やハイテク関連)や、設立聞もなし叶、規模企業では、負債利用の余地は少ない。
逆に事業リスクの小さい業種(例えば電力)や、歴史の古い大企業では、負債利用の余地も大きい。
(3)投資や資産の性格土地や建物、工場、機械などの設備投資が多く、有形固定資産が多い企業はこれらの資産を担保として、より多くの負債を利用することができる。
また、業績不振に陥っても、それらの資産を売却できる可能性があるため、倒産の可能性にともなうコストが少ない。
これに対し、研究開発や広告宣伝の投資が多く、有形固定資産が少ない企業は担保物件が少なく、業績不振に陥った場合に売却できる資産が少ないため、多くの負債を利用することができない。
(4)経営者のリスクに対する許容度同じ業種に属し、同程度の規模の企業の聞でも、個々の企業の資本構成には相当ぱらつきがみられる。
最適な(あるいは満足できる)資本構成は、その企業の所属業種、規模、成長段階に加えて、個別企業の経営者のリスクに対する許容度の違いによっても当然違ってくる。
(5)社債の格付けなどの制度的要因一般に社債の格付けが下がれば負債コストの上昇を招く。
社債の格付けは財務データだけで決定されるものではないが、簿価ベースの株主資本比率は格付け決定に際しての重要な要因の1つとされている。
アメリカでは格付けの維持を財務目標に掲げている企業もあり、その場合には格付けを落とさないように資本構成の目標も決められる。
(6)資金提供者とのリレーションの考慮企業が実際に資金調達をおこなった際には、資金提供者(株主や債権者)に対して企業業績等の情報を提供して、リレーションシップを維持するための活動が必要になる。
また、ある資金調達手段を多用すれば、その資金提供者が経営に与える影響も大きくなる。
例えば、企業が金融機関からの借り入れを多くおこなえば、当然、その金融機関の影響力は大きくなり、業績不振に陥った際に、経営への介入がおこなわれる可能性が高まることになる。
資本構成の選択にあたっては、このような資金提供者とのリレーションシップの内容とコストも考慮する必要がある。
(7)機動的な資金調達の可能性の確保長期的にみれば、企業の価値は資本構成や資金調達方法よりも、投資や事業内容の影響をより強く受けると考えられる。
したがって、有利な投資機会が生まれたときに必要な投資金額を機動的に調達できるようにしておくことが重要である。
一般に資金調達の規模と機動性の点については、株主資本よりも負債のほうが優れているので、有利な投資機会が生まれたときに相当規模の資本を機動的に調達できるように、望ましい資本構成より負債比率を若干低めにしておくのが望ましいとされている。
団日米企業の資本構成5、1アメリカ企業の資金調達の考え方。
伝統的に、アメリカの多くの企業は次のような考え方で資金調達をおこなっていると指摘される。
(1)企業は、まず内部資金(税引利益・減価償却費)で投資の必要資金をまかなおうとする。
このため、投資の資金需要を考慮して目標配当性向が大まかに決められる。
(2)毎年の利益や投資額の変動によって、内部資金と投資額はもちろん一致しない。
内部資金が投資額を上回る場合は、負債の返済をおこなったり、有価証券で運用したりする。
逆に、内部資金では投資額に満たない場合には、まず預金を取り崩したり、保有有価証券を売却する。
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